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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(あ)2891号 判決 1968年6月28日

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

本件を甲府地方裁判所に差し戻す。

理由

被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であり、弁護人露木茂の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかしながら、所論にかんがみ、職権をもって調査すると、本件第一審判決が認定判示した犯罪事実のうち、第一は、「被告人は昭和三九年六月一日頃、高村高元が南都留郡山中湖村山中字茶屋の段二四八番の二の同人の所有地と、その北側及び西側において隣接する被告人の土地との境界に、境界線として設置した有刺鉄線張りの直径約八センチメートル、長さ約一メートルの丸太三二本を根元から鋸で切り倒し、もって境界線を損壊して右土地の境界を認識できないようにしたものである」というのである。そして、原審弁護人が、本件被告人の行為によっては、境界の認識が不能になるという結果が生じていないから、境界毀損罪が成立することはないと主張したのに対し、原判決は、「被告人のなした原判示の所為により、原判示境界標を損壊し、右土地の境界を認識することができないようにしたこと、右高村が、原判示所有地に植林した原判示三年生落葉松苗三〇八本を抜き捨て、その本来の効用を害したことを含めて、原判示第一および同第二の各事実を十分に肯定することができ」る旨判示して右主張を斥けている。

ところで、境界毀損罪が成立するためには、境界を認識することができなくなるという結果の発生することを要するのであって、境界標を損壊したが、未だ境界が不明にならない場合には、器物毀棄罪が成立することは格別、境界毀損罪は成立しないものと解すべきである。これを本件について見ると、第一審判決の挙示する証拠を検討しても、被告人がその所有地と高村高元の所有地との境界標として設置されていた有刺鉄線張りの丸太三二本を根元から鋸で切り倒し、境界標を損壊した事実は認められるが、この行為により境界が不明になったという事実を認めるには十分でない。かえって、右証拠中の司法警察員作成の実況見分調書および第一審第二回公判期日において取り調べられた司法警察員作成の現場写真撮影報告書によれば、右丸太は、いずれも地上すれすれのところで切断され、根元附近に有刺鉄線をつけたまま放置されており、その地中の部分(約二〇センチメートル)はそのまま残存し、しかも、その切株の位置を発見することが特に困難という状況にもなかったことがうかがわれるのである。そうすると本件境界は、被告人の行為後も、従来の境界標の一部によって、その認識が可能であった場合であると認定できないことはない。しかるに、右認識が不能になったものとして、境界毀損罪の成立を認めた第一審判決には、重大な事実の誤認を疑うに足りる顕著な事由ないし刑法の解釈適用をあやまった違法があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであって、第一審判決およびこれを是認した原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。

よって、刑訴法四一一条一号、三号、四一三条本文により原判決および第一審判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

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